契約書を作成する際、インターネット上で簡単に見つかる無料のテンプレートをそのまま流用して済ませてしまうケースが散見されます。しかし、実務の最前線から申し上げますと、こうした安易な作成方法は将来の致命的なトラブルを引き起こす火種になりかねません。契約書は単なる約束事の記録ではなく、万が一紛争が発生した際の解決に向けた具体的なシナリオであるべきだからです。

実務上、契約書を作成する上で最も注視すべきは、相手方の債務不履行時における強制執行や損害賠償請求の実現可能性です。たとえば、金銭の貸し借りにおける契約において、単に返済期日と金額を記載するだけでは不十分です。支払いが滞った瞬間に残額を一括で請求できるよう「期限の利益喪失条項」を綿密に設計し、さらに相手方の資産状況や事業の安定性を考慮した上で、連帯保証人の設定や遅延損害金の利率を実態に合わせて調整する必要があります。テンプレートにある一般的な数字をそのまま当てはめるだけでは、いざという時の回収手続きにおいて実効性を伴いません。

さらに、業務委託契約や秘密保持契約においても同様です。損害が発生した場合の賠償上限額の設定や、管轄裁判所の指定において、自側に有利な条件を引き出すための交渉材料として契約書を機能させることが求められます。自社の事業リスクを正確に洗い出し、どの条項が最も大きな盾となるのかを見極めることが、実務的な契約書作成の要諦です。

そして、強制力を極限まで高める手段として、公正証書の活用は極めて重要です。特に金銭の支払いを目的とする契約において、執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくことで、裁判を経ることなく直ちに相手方の預貯金や給与を差し押さえることが可能となります。ただし、公証役場で公証人に作成を依頼する際も、当事者間で事前に合意した内容が法的に無効と判断されないよう、法令の強行規定に抵触しない緻密な文言調整が不可欠です。公証人は中立な立場であるため、一方の利益を最大化するようなアドバイスは行いません。そのため、事前に実務家を交えて自側の権利を保全する条項を完璧に練り上げてから公証役場へ持ち込むことが、実務における鉄則となります。

トラブルを未然に防ぎ、いざという時に確実に機能する契約書は、当事者間の力関係や事業の特性、将来起こり得る最悪の事態をすべて想定した上でオーダーメイドで作成されるべきものです。表面的な書面の体裁を整えることにとらわれず、法的拘束力と実効性を徹底的に追求した契約書作りを心がけていただくことが、結果として大切な財産や権利を守り抜くことにつながります。

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保坂 一成
保坂 一成
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