最近、ニュースや新聞などで「人生100年時代」や「終活」といった言葉を目にする機会が増えました。長生きができることは素晴らしいことですが、それと同時に、ご自身やご家族が認知症になった際の生活について、漠然とした不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

先日、当事務所にも将来への備えについてご相談にいらっしゃったお客様がいました。その方は現在お一人暮らしをされており、「もし将来、認知症になって判断能力が低下してしまったら、銀行での手続きや老人ホームへの入居契約は誰がしてくれるのか」という切実な悩みを抱えておられました。頼れる親族は遠方に住んでおり、迷惑をかけたくないという思いも強かったようです。

そこで私たちは、ご本人が元気なうちに将来の財産管理や身上監護を信頼できる人に託すことができる「任意後見制度」の活用をご提案いたしました。あわせて、後々のトラブルを未然に防ぎ、契約内容を法的に確かなものにするために「公正証書」を作成することの重要性についても丁寧にご説明いたしました。具体的な対策が決まった際、お客様が「これで将来への霧が晴れました」と安堵の表情を浮かべられたことが、今でも強く印象に残っています。

今回は、この事例のように多くの方が関心を寄せている「認知症への備え」をテーマに、行政書士の視点から任意後見制度の仕組みやメリットについて詳しく解説いたします。大切な財産とこれからの生活を守るための選択肢として、ぜひ参考になさってください。

1. 認知症への備えとして注目される任意後見制度の仕組みと特徴

超高齢社会を迎えた日本において、認知症はもはや特別なことではありません。多くの人が「もし自分が認知症になったら、預金の管理や生活の手配はどうなるのだろう」という切実な不安を抱えています。そうした中で、自分の将来を自分で守るための前向きな手段として「任意後見制度」への関心が急速に高まっています。ここでは、行政書士の実務視点から、この制度の基本的な仕組みと、なぜこれほど注目されているのか、その特徴を分かりやすく解説します。

まず、任意後見制度とは、本人が十分な判断能力を持っている元気なうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、「誰に」「どのような支援をしてもらうか」をあらかじめ契約によって決めておく制度です。すでに認知症などで判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見制度」とは異なり、自分の意思で信頼できる人物を選び、支援内容を自由に設計できる点が最大の特徴です。

この制度を利用する際、最も重要なのが「公正証書」の作成です。法律により、任意後見契約は公証役場で公正証書によって締結することが義務付けられています。公証人が関与することで、本人の意思が明確であることを公的に証明し、契約内容の法的な不備を防ぐことができるため、将来にわたって高い安全性が確保されます。

任意後見制度の具体的な仕組みは、以下のような流れになります。

1. 契約の締結: 本人と、将来後見人になってもらう人(任意後見受任者)との間で、支援内容を取り決め、公正証書を作成します。
2. 待機期間: 契約後も、本人が元気な間は効力が発生しません。本人はこれまで通り自由に財産を管理し、生活を送ることができます。
3. 発効: 本人の判断能力が低下した場合、家庭裁判所に申し立てを行い、「任意後見監督人」が選任された時点から、任意後見受任者が正式に「任意後見人」として活動を開始します。

この制度のメリットは、単に財産管理を任せるだけでなく、「どのような介護施設に入居したいか」「どのような医療を受けたいか」といった身上監護(生活や療養看護に関する事務)についても、自分の希望を契約内容に反映できることです。見知らぬ専門家が選任される可能性のある法定後見と比べ、「信頼できる家族や友人に頼みたい」「自分のライフスタイルを尊重してほしい」という願いを確実に叶えることができます。

認知症への備えは、早すぎるということはありません。最後まで自分らしく生きる権利を守るための「保険」として、任意後見制度の活用は非常に有効な選択肢と言えるでしょう。

2. トラブルを未然に防ぐために公正証書で契約を結ぶメリット

認知症対策として非常に有効な手段である「任意後見契約」ですが、実はこの契約は法律によって「公正証書」で作成することが義務付けられています。自分たちだけで作成した私文書では、法的な効力は認められません。なぜこれほど厳格な形式が求められているのでしょうか。それは、個人の財産管理や身上監護という重大な権限を他人に委ねる契約であるため、曖昧さを排除し、将来のトラブルを徹底的に防ぐ必要があるからです。ここでは、公正証書を利用することの実質的なメリットと、それがもたらす安心感について解説します。

まず最大のメリットは、「本人の意思確認が厳格に行われること」によるトラブル防止効果です。
公証役場では、公証人(長年裁判官や検察官などを務めた法律の専門家)が、委任者である本人と直接面談を行い、契約締結の意思や判断能力の有無を確認します。これにより、将来的に他の親族から「認知症が進んで判断能力がないのに、無理やり契約させられたのではないか」「財産目当てで勝手に作成されたものではないか」といった疑いをかけられるリスクを劇的に減らすことができます。公正証書として残ることは、「契約時点で本人の意思が明確であり、正常な判断のもとに行われた」という強力な証明となり、将来の親族間紛争を未然に防ぐ盾となります。

次に、「契約内容の法的な不備や無効を防げる点」も極めて重要です。
一般的な契約書を個人で作成しようとすると、法的に無効な条項が含まれていたり、逆に必要な権限(例えば金融機関での払い出し権限や不動産の処分権限など)が記載漏れしていたりするケースが散見されます。いざ認知症になり後見を開始しようとした時に、「銀行で手続きができない」「介護施設の入所契約に使えない」となってしまっては、契約の意味がありません。法律のプロである公証人が作成に関与することで、法令に準拠した不備のない契約書となり、将来の運用においてもスムーズに手続きを進めることが可能になります。

さらに、「原本の保管と安全性の確保」も大きな利点です。
作成された公正証書の原本は、公証役場で原則として20年間(事案によってはそれ以上)厳重に保管されます。自宅で契約書を保管する場合に起こり得る、紛失、盗難、火災による焼失、あるいは悪意のある第三者による改ざんや破棄といったリスクを完全に排除できます。もし手元の謄本をなくしてしまっても、公証役場に請求すれば再発行が可能です。また、任意後見契約を公正証書で結ぶと、公証人が法務局へその旨を依頼し、後見登記が行われます。これにより、受任者(将来の後見人)の地位が公的に証明されるため、対外的な信用力も担保されます。

このように、公正証書で契約を結ぶプロセスは、単なる事務手続きではありません。ご自身の老後の生活と大切な財産を守り、支援してくれる家族や信頼できる第三者が安心してサポートに専念できるようにするための、最も確実で安全な基盤づくりなのです。費用や手間はかかりますが、それに見合うだけの「法的な安全性」と「将来の安心」が得られると言えるでしょう。

3. 【相談事例】将来の生活を守るために任意後見契約を結ばれたお客様のお話

高齢化が進む現代において、頼れる身寄りが近くにいない、いわゆる「おひとり様」の老後に対する不安は切実な問題となっています。ここでは、実際に当事務所へご相談いただき、将来の安心を手に入れられた70代女性、鈴木様(仮名)の事例をご紹介します。

鈴木様は数年前に配偶者を亡くされ、都内のご自宅でお一人で暮らされていました。お子様はいらっしゃらず、姪御様とは年賀状のやり取り程度の関係で、将来の介護や財産管理を頼める状況ではありませんでした。ニュースで「認知症になると銀行口座が凍結される」「施設への入所手続きができなくなる」といった情報を目にするたび、漠然とした恐怖を感じていたそうです。

「今は元気だけれど、もし認知症になったら、誰が私の生活を守ってくれるのでしょうか」

初めてお会いした際、鈴木様はそのような不安を口にされました。そこで行政書士として提案させていただいたのが、公正証書による「任意後見契約」です。

この契約は、ご本人に判断能力があるうちに、将来の後見人(任意後見人)を自ら選び、代理権を与える契約を結んでおくものです。鈴木様の場合、信頼できる専門家を後見人候補者として指名し、将来認知症などで判断能力が低下した際には、預貯金の管理や介護施設との契約、医療費の支払いなどを代理で行えるように内容を設計しました。

また、鈴木様はまだお元気でしたので、判断能力が低下するまでの間も定期的に連絡を取り合い安否確認を行う「見守り契約」も併せて締結することにしました。これにより、元気なうちは見守りを受け、いざという時はスムーズに後見事務へ移行できる体制が整いました。

契約書は公証役場で「公正証書」として作成しました。公証人が関与することで契約の法的な確実性が担保され、家庭裁判所による監督機能も働くため、より安心感が高まります。

手続き完了後、鈴木様からは「これで将来の道筋が見えました。ようやく枕を高くして眠れます」と、安堵の表情でお話しいただけました。

この事例が示すように、任意後見契約は単なる法的な手続きではなく、将来の不安を取り除き、自分らしく生きるための「お守り」のような存在です。重要なのは、判断能力が十分にある元気なうちに決断し、備えておくことです。認知症になってからでは、任意後見契約を結ぶことはできません。

もしご自身の将来や、離れて暮らすご両親の老後に不安を感じているのであれば、元気な今のうちに専門家へ相談し、公正証書による備えを検討してみてはいかがでしょうか。早めの行動が、将来の生活と尊厳を守る大きな一歩となります。

投稿者プロフィール

保坂 一成
保坂 一成
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